ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

第8夜 永遠の少年「両さん」・・・ヒーローに憧れて

少年時代、マンガをよく読んだ。
私の人生観は、マンガによって作られたのかも知れない。
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鉄人28号、鉄腕アトムエイトマン、ビッグX、スーパージェッター、宇宙少年ソラン、魔法使いサリー、秘密のアッコちゃん、・・・         
これらのアニメ主題歌は今でも暗唱している。
小学生の頃、私はテレビアニメに夢中だった。


マンガもよく読んだが、高くて買えなかったので貸本屋によく通った。
学校近くの民家の縁側には漫画が沢山置いてあり、おばちゃんが子供相手に貸本屋をしていた。
少年キング、サンデー、マガジンなどの漫画週刊誌が定価60円位の頃、半年や1年前の古本を5円や10円で借りることが出来た。
表紙がぼろぼろの古本を、まとめて借りては一心に読んだ


中学・高校時代は小説を読み漁った。
欧米の古典をよく読んだが、それ以上にアメリカのSF作品を読んだ。
宇宙活劇の他、宇宙論、文明論をテーマとした哲学的なものも多かった。
時空間を超えたストーリーの展開に夢中になり、風呂やトイレの中でも本を読んで家族のひんしゅくを買った。
SFに惹かれたのは、漫画の影響も大きかったと思う。

 

大学に入ると、一転して本を読まなくなった。
いくつものサークルを掛け持ちして、アルバイト・山歩き等も忙しく、成績は急降下した。
下宿で酒を飲んで議論をしたり、麻雀の卓を囲むことも多かった。
徹夜麻雀明けの下宿でそのまま雑魚寝をし、目が覚めた人間から帰って行く。
そんなこともあって私の下宿は、いろんな人間がいつでも立ち寄れる小汚い「サロン」と化していった。
留守中の来訪者のために連絡帳が部屋の中央にあり、夕刻私が帰ってくると伝言が書き込んであった。
時には誰かが寝ていることもあった。
部屋は散らかり放題で畳は見えなかったが、そんな生活に私は妙に満足していた。

 

そんな頃、少年ジャンプで「こち亀」(こちら亀有公園前派出所)が始まった。
主人公の両津勘吉は、下品でだらしなく計画性が無い、仕事はさぼる、金のためなら友人をも裏切る。
そんな彼が人をだまして一儲けしようとするが、あまりの強欲さ故にいつも失敗してしまう。
そんな展開にいつも腹を抱えて笑った。
笑いながらも、奇妙な親近感を抱いた。


                                                                   
大学生四年目、成績不良の私も奇跡的に留年せず4年生になった。
ただ卒論研究そっちのけでサークル活動に没頭し、さらには卒業後の留学まで計画して資金準備のためのアルバイトにも励んだ。
そんな私を評して、同じゼミのKが、「おまえは両津そっくりだな。」といかにも感心するかのように言った。
そう言われて私は嬉しかった。

両さんはヒーローだ。
超人的な体力を持ち、あらゆる遊びに長け、金儲けのためなら驚異的な能力を発揮する。
自分の都合しか考えず、他者の迷惑など顧みもしない。
彼の生き様の明快さが羨ましかった。
また彼は決して人を傷つけない。
粗雑な言動や裏切りで多少周囲を困らせても、最後はその何倍もの報いを受けるので彼の罪は許されてしまう。
助平だが女性と恋仲になることは無く、従って傷つけもしない。
強者には強く、弱者には優しい。
彼の根底には少年の純情さを感じる。

両津勘吉 に対する画像結果

そんな両さんに成り切ろうと、私は早速翌日から研究室で競馬新聞を広げて馬の研究を始めた。
だが、友人の発言の真意は別のところにあったらしい。
職場を抜け出して遊んでいる両さんには天敵の上司「大原部長」がいて、部長の口癖は「両津はどこへ行った?」である。
当時の私にも、天敵とも言うべき存在「ゼミの指導教官M先生」がいた。
研究室に来る彼の口癖は
「草野はどこへ行った?」
 だったらしい。

 

こち亀」もついに40年の連載を終え、私の学生生活も遠い昔となってしまった。
学生時代が懐かしくなって、たまに当時の連絡帳を開いて読むことがある。
するとそこには、たくさんの両津勘吉達が今も少年の日々を過ごしている。

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(追記)
道本先生、「天敵」扱いをして申し訳ありません。 m(__)m
当時は本当にお世話になりました。
意欲も能力も無い私を見捨てずに指導していただいた先生の姿は、その後の私の教員生活における道しるべとなりました。

両津勘吉 に対する画像結果