ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

別冊⑮(青春編)ヒーローへの憧れ・・・永遠の少年、両津勘吉

鉄人28号 漫画

鉄人28号、鉄腕アトムエイトマン、ビッグX、サイボーグ009・・・
小学生の頃、私はアニメや漫画に夢中だった。
当時はキング、サンデー、マガジンなどの漫画週刊誌が相次いで創刊された頃で、定価60円位だったろうか。
菓子パンが30円くらいの時代に60円は大金だ。
漫画本を何冊も買うことはできなかった。
だが、学校の近くに貸本屋があってよく利用した。
民家の縁側に漫画が沢山置いてあり、おばちゃんが子供相手に小さな貸本屋をしていた。
半年や1年前の古本だと、5円や10円で借りることが出来た。
私は表紙がぼろぼろの古本を、まとめて借りては一心に読んだ


中学・高校時代は小説をよく読んだ。
欧米の古典も読んだが、それ以上にアメリカのSF作品を読んだ。
時空間を超えたストーリーの展開に夢中になり、風呂やトイレの中でも本を読んで家族のひんしゅくを買った。
SFに惹かれたのは、漫画の影響も大きかったと思う。


だが大学に入ると、一転して本を読まなくなった。
受験勉強から解放され、やりたいことが山のように有った。
読書による間接体験では無く、様々なことを実際に試してみたかった。
いくつものサークルを掛け持ちし、アルバイトにも励んだ。


交友の範囲が広がり、友人も増えた。
私の下宿は大学の目の前だったので、よく友人達がやってきた。
だが残念ながら男友達ばかりだった。
男ばかりの付き合いは、下宿で議論をしたり、麻雀をしたりする事が多かった。
徹夜で麻雀した後はそのまま雑魚寝をし、昼頃になって目が覚めた人間から帰って行った。


そんなこともあって私の下宿は、いろんな人間がいつでも立ち寄れる小汚い「サロン」と化していった。
留守中の来訪者のために連絡帳が部屋の中央にあり、夕刻私が帰ってくると幾つも伝言が書き込んである。
時には私が帰宅すると、誰かがコタツで寝ていることもあった。
部屋は散らかり放題で畳は見えなかったが、そんな生活に私は妙に満足していた。


そんな頃、少年ジャンプで「こち亀」(こちら亀有公園前派出所)が始まった。
主人公の両津勘吉は、下品でだらしなく計画性が無い、仕事はさぼる、金のためなら友人をも裏切る。
そんな彼が人をだまして一儲けしようとするが、あまりの強欲さ故にいつも失敗してしまう。
そんな展開にいつも腹を抱えて笑った。
笑いながらも、奇妙な親近感を抱いた。


ある時、同じゼミの友人から「おまえは両津そっくりだな」といかにも感心するかのように言われた。

そう言われて私は嬉しかった。
両さんはヒーローだ。
超人的な体力を持ち、あらゆる遊びに長け、金儲けのためなら驚異的な能力を発揮する。
自分の都合しか考えず、他者の迷惑など顧みもしない。
彼の生き様の明快さが羨ましかった。

また彼は決して人を傷つけない。
粗野な言動や裏切りで多少周囲を困らせても、最後はその何倍もの報いを受けるので彼の罪は許されてしまう。
助平だが女性と恋仲になることは無く、傷つけもしない。
強者には強く、弱者には優しい。
彼の根底には、少年の純情さが感じられた。


だが、友人の発言の真意は別のところにあったらしい。
当時の私は四年生に進級したものの、卒業研究を後回しにしてサークル活動やアルバイトに精を出していた。
そのため、他の学生が研究室で研究をしている時も、私だけ不在のことがよくあった。


両さんもよく職場を抜け出して遊んでいることが多い。
そして彼には、天敵である上司「大原部長」がいた。
職場にやってくる部長の口癖は「両津はどこへ行った?」である。
実は私にも、天敵とも言うべき存在「ゼミの指導教官M先生」がいた。
研究室に来る彼の口癖も「草野はどこへ行った?」だったらしい。


こち亀」もついに40年の連載を終え、私の学生生活も遠い昔となってしまった。
今、学生時代がたまらなく懐かしい。
自分の欲しいものをひたすら追いかけて、傷ついた日々。
あの4年間の私は、あまりにも幼く不器用な少年だった。

学生時代が懐かしくなると、当時下宿で使っていた連絡帳を読むことがある。
そこには、たくさんの両津勘吉達が今も少年の日々を過ごしている。

(追記)
M先生は当時大学院を出たばかりで、私達と数年しか歳が違わない。
意欲に燃えて学生の指導にあたられていたのに、私はとんでもない学生だった。
数年前に広島を訪れて友人達と酒を飲んだ際、懐かしくなってM先生に電話をした。
先生は夜遅い時刻だったのに、わざわざ宴席に出向いて頂き、昔話に話が弾んだ。
卒業してもなお、ご迷惑をおかけしている。

道本先生、「天敵」扱いをして申し訳ありません。 m(__)m
当時は本当にお世話になりました。
意欲も能力も無い私を見捨てずに指導していただいた先生の姿は、私の教員生活における道しるべとなりました。

(注)
この書き込みは「第8夜 永遠の少年「両さん」」をリライトしたものです。