ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

2023-01-01から1年間の記事一覧

第50夜 さようならSL

今日、18年ぶりに会った。そして、これが故郷で見る最後の姿となった。ホームを出発する汽車は、細く長く汽笛を鳴らして出て行った。まるで泣いているかのようだ。・・・・・・・・・・・・・ 高校時代、毎朝「一番汽車」で通った。当時すでに蒸気機関車(SL…

別冊⑯(家族編)父のくれた手袋

父は数年前に亡くなった。酒好きだった父のために仏壇に酒を供え、父といろんな話をする。 生前、父と私は会話の少ない親子だった。 亡くなってからの方が、会話が増えたかも知れない。今、とても父に会いたい。 ・・・・・・・・・・・・・ 「寒うなかか?…

別冊⑮(青春編)ヒーローへの憧れ・・・永遠の少年、両津勘吉

鉄人28号、鉄腕アトム、エイトマン、ビッグX、サイボーグ009・・・小学生の頃、私はアニメや漫画に夢中だった。当時はキング、サンデー、マガジンなどの漫画週刊誌が相次いで創刊された頃で、定価60円位だったろうか。菓子パンが30円くらいの時代に60円は…

別冊⑭(平和運動編)平和をどう作るか・・・知覧にて

特攻平和会館の展示物は、戦争の悲惨さを語るのか、それとも悲劇の英雄たちを称賛するのか、それを確かめたくて10年ぶりに知覧を訪れた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「軍備増強を!」 「敵基地への先制攻撃を!」ウクライナ侵攻以降、勇まし…

別冊⑬(平和運動編)知覧特攻平和会館での疑問・・・英霊達の憂い

あんまり緑が美しい。今日これから死にいくことすら忘れてしまいそうだ。真青な空 ぽかんと浮かぶ白い雲 6月の知覧はもうセミの声がして夏を思わせる。・・・・・・・・・・・・・・・・・ 先の文章は、22歳で特攻に飛び立った兵士が残した文章だ。初めて…

第49夜 花の下にて春死なん(理想の死に方を求めて)

五木の子守歌の後半の歌詞は、野垂れ死にの歌だ。それは私の望む死に方でもある。------------ おどんが うっちんねえば 道ばちゃ いけろ通る人ごち 花あぎゅい (私が死んだら 道端に埋めろ) (通る人ごとに 花を供えるだろう) 親父はこの歌…

第48夜 被爆の日に②・その後の少年達

(ジョー・オダネル氏撮影) 少年は涙を見せなかった。彼は泣かないほど、強かったのだろうか。それとも泣けないほど、多くのものを抱えていたのだろうか。 いろんな事を想像する。「家」に戻れば瀕死の家族がいて、泣いてる余裕もなく看病をしなければなら…

第47夜 被爆の日に①・戦場の子ども達

(山端庸介氏撮影) 何歳だろう。3,4歳くらいだろうか?顔中に傷を作り、防空ずきんの下には包帯のようなものも見える。大切なおにぎりを手に、無表情にカメラを見つめている。この幼い目は、被爆の地でどんな景色を見てきたのだろう。 80年代、被爆記録…

第46夜 2011年・被災地(東北)にて②・・・ボランティアの意味

被災地へ支援に行ったつもりだったのに、私は被災者に励まされて現地を発った。---------------- 最終日の作業はアパート室内の清掃だ。2階建ての建物はそんなに丈夫そうには見えないが、津波に見舞われながらもしっかりと建っていた。屋内…

第45夜 2011年・被災地(東北)にて①・・・悩み

宿舎に到着した晩、言われた言葉に自分を恥じた。「物見遊山で被災地に来ても構いません。現地に行けば、必ず『何かしたい』という気持になります」---------------- 今日の現場は前日に続いて、津波で浸水した家屋の泥出しだった。民家の庭…

別冊⑫(災害編)東日本大震災・・・孤独

2011年3月11日真っ黒な津波が、田園風景を吞み込みながら進んでいく。これまで確信していた「平和」が壊れた瞬間だった。・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4月下旬、その日の仕事は、大船渡市中心部の高台にある仮設住宅への支援物資の配達だった。各戸の…

第44夜 ビートルズの謎・・・アオナ ホー ヨー へー

昔、厚みがペラペラのフォノシート(レコード)があった。当時は、雑誌の通販で一枚100円以下で売っていたような記憶がある。・・・・・・・・・・・・・・・ 小学生の頃、我が家にはレコードプレーヤーが無かった。近所のお姉さんの家には有ったので、お姉さ…

別冊⑪(教育編)でもしか教師・・・教育におけるヤブ医者

教師は「医者で易者で役者でなければならない」と教わった。 人の課題を見抜き、進むべき道を示して励ませと言う意味だろう。 だが私はヤブ医者で、当たらぬ易者だった。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 呼ばれて校長室に入ると、教頭が一人ソファーに座っ…

別冊⑩(バイク・家族編)メグロS7・・・千羽鶴の遺灰との旅

我が家には錆だらけのオートバイがある。最後にエンジンをかけて以来、数十年も軒下で寝ている。でも、捨てられない。・・・・・・・・・・・・・・・ ライトに照らし出され、海の中に鳥居が赤く浮かび上がっている。夜の海辺には観光客の姿は無く、波音だけ…

第43夜 カワサキW1SA(バーチカルツインの響き)・・・「三番目」の逆襲

マルチエンジンの様に紳士的ではない。しかし、ハーレーの様に暴力的でもない。無骨だが人間的な温かみを感じさせるその排気音に、私は魅せられた。・・・・・・・・・・・・・・・ 燃料コックを開き、キャブレターに付けられたティクラーを押して、ややオー…

別冊⑨(音楽編)Danny Boy・・・我が子を待ちわびる

「ダニー・ボーイ」は、戦地に行った息子の帰りを待つ、父親の気持ちを歌ったものだと聞く。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「女将さん、曲名は何?」『何とかボーイ、ボニーだったかな?』少し酔ったかに見える女将は、はっきりとしない。「マイボニ…

第42夜 学校の怪談・・・深夜の残業

私は夜の学校が嫌いだ。誰もいないはずなのに、誰かがいるような気がしてしようがない。・・・・・・・・・・・・・・・ これまで私が勤務してきた学校は、比較的郊外にあるものが多かった。 そしてそんな学校の中には、古い墓場や火葬場の跡地を整地して作…

第41夜 ヒッチハイクは命懸け・・・夜の山道で

「何の用だ!」 野太い声を出しながら、ドアから大柄な運転手が降りてきた。見ると彼の手には、鉄パイプが握られている。私は、しまったと思った。・・・・・・・・・・・・・・・・・ 仕事のため熊本市方面へ向けて車を走らせていた。すると、「熊本市」と…

別冊⑧(医療編)世界一短い病名

何となく、他人に言い辛い病名が有る。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 憩室炎で入院した翌年の夏、私の身体はまたも重大な事態に見舞われた。便が出ない。元々便秘気味ではあったが、まったく出ない状態となった。「そのうち…

別冊⑦(医療編)病名・ケイチツ炎?・・・不純な動機での入院

病名も、ネット上のニックネームも、名前は大切だ。・・・・・・・・・・・・・・ 「大腸のケイチツ炎が疑われます。すぐに入院して下さい。」 『えー! 入院は困ります。通院でどうにかなりませんか?』 「このままでは危険です!」医者は深刻な表情で私に…

別冊⑥(山行・教育編)竜王山・・・神との取引

イザナミの眠る山、比婆山。その近くにある竜王山の登頂に失敗し、深刻な事態となった。私は神に祈る以外、どうすることもできなかった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「先生、Tの様子がおかしいです。」部長のMが最後列から叫んだ。雪の中…

別冊⑤(山行編)独立峰大山・・・闇将棋

山は美しい、そして怖い。 不遜なものを拒む。・・・・・・・・・・・・・・・ 「4二銀」 『5六歩』「5四歩」 『5七金』「そんなとこに金があったか?」 『有りましたよ。』「うそー」 将棋盤も駒もないバーチャルな「闇将棋」はお互いの記憶力だけが頼り…

別冊④(山行編)パンスト初体験・・・未知との遭遇

異文化に接したとき、人は混乱する。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ パッケージから取り出すと、それは想像以上に薄かった。顔を近づけると向こうの景色が透けて見える。「こんなに薄くて、大丈夫かな?」初めて見るパンストを前に、私は考え込んでし…

別冊③(音楽編)虹の彼方に・・・旅立ったもの達へ

懐かしい曲を聴くと、懐かしい人を思い出す。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 新聞販売店近くの喫茶店で、私は就職して以来の出来事を話し続けた。二人の会話が途切れた時、店内に流れているメロディーがふと耳に入った。どこかで聴いた曲だ。いつど…

第40夜 「未来からの記憶」に導かれて(運命的な出会い)

アーサー・C・クラークのSF小説「地球幼年期の終わり」の中で、「未来からの記憶」という言葉が出てくる。私はこの言葉が好きだ。・・・・・・・・・・・・ 小説の中で、次のような内容が語られる。 ある日、宇宙人の乗った宇宙船が地球に着陸した。しかし、…

別冊②(恋愛編)ラブレター・・・借り物の自分を捨てる時

人生で一度だけ、ラブレターを書いた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「草野、この写真は使えない。」サークルの先輩が差し出した写真を見て、私は息が止まった。先日開かれた、各大学合唱団の合同クリスマス会での集合写真だ。整…

第39夜 シェヘラザードの悩み(エッセイを書く苦しみと楽しみ)・・・読んでもらえる文章を書く

シェヘラザードは王様に殺されないために、面白い話を千一夜話し聞かせて命が助かった。彼女が助かったのは、シンドバッドの冒険などの面白い話を沢山知っていたからだ。もし私のエッセイを聞かせていたら、話の途中で即座に王様に殺されていただろう。・・…

別冊①(料理編) 幻のブイヤベース(伝説のレシピはいかにして生まれたか)

その日、私たちが作った料理は「伝説」となった。

第38夜 マタイとヨハネと改名騒動(役所に見る国際化と鎖国)

日本の行政は非常に厳格だ。一方、最近のマイナンバーカードの登録に象徴されるように、怪しげな運用も多い。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「その名前はダメです。受け付けられません」窓口の担当者は冷たく言い放った…

第37夜 ジョーの思い出(大陸横断鉄道を作った曽祖父)・・・トロンコとジャケツの謎

昔から、我が家だけでしか通じない言葉がある。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 我が家の言葉は、他の家と少し違う。いろんな国の言葉が混じっている。私の肥後弁、妻の備後弁、息子の嫁は肥前の言葉だ。そして私が小さい頃からよく聞い…