ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

別冊④(山行編)パンスト初体験・・・未知との遭遇

異文化に接したとき、人は混乱する。

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パッケージから取り出すと、それは想像以上に薄かった。
顔を近づけると向こうの景色が透けて見える。
「こんなに薄くて、大丈夫かな?」
初めて見るパンストを前に、私は考え込んでしまった。

 
私の所属する探検部の活動の中心は洞窟調査だ。
洞窟内は年中気温が一定のため服装はつなぎ服とヘルメットだけの薄着だったが、冬場のキャンプ地での防寒対策は重要な課題だった。
当時みんなが愛用したのは、襟にナイロン製の毛皮(?)が付いた「カストロジャンパー」だった。
カストロが着ている服に似ていたのか、そんな名前で呼ばれており、安価で結構暖かかったので重宝した。
しかし、下半身の冷えを防ぐ有効手段を探していた。

 
『パンストが暖かいらしい』
石田が思わぬ情報を仕入れてきた。
「パンスト? あの、女がはくやつか?」
『ああ、最近は男物のパンストも有るらしいぞ』
「えっ、男がパンストをはく! それって変態だろう」
しかし石田の話によると、パンストは軽くて暖かいらしい。
こうして遠征にパンストを持って行くこととなった。

 
翌日私はデパートに行ったが、紳士服売り場にパンストは無かった。
仕方なく婦人服売り場へ行き、下着コーナーをうろうろと探し歩いたが見当たらない。
店員の視線が妙に気になった。
やっとパンストを見つけたが、やはり男用は無い。
意を決して店員に尋ねた。

「あのう、男物のパンストがありますか?」
『男物のパンスト?』
店員の目は明らかに不審者を見るそれだった。
私は説明するのが面倒になり、パンストを適当に手にとってレジへ向かった。

 
明日からの山行に備え、下宿でパンストのチェックを始めた。
衝撃だったのは、パンツの部分だ。
想像以上に薄い。
ここだけは厚く作ってあるものと思っていたので意外だった。
試しにはいてみる。
戸が閉まっていることを確認すると、ズボンとパンツを脱いだ。
爪を引っかけない様に気をつけてはくが、すね毛が引っかかり妙にモワモワとする。
最後に腰まで引き上げるが、パンツと違って妙に頼りない。
肝心の保温性能も微妙だ。
確かに暖かいのだが、動く度にスーッとした感じがして、やたらと風通しが良い。
世の中の女性達は,こんなものだけで寒くないのか不思議だった。
そもそも、いくら合理性優先の時代とは言え、パンティーとストッキングまで合体させる必要があるんだろうか。
普通のパンツの方が暖かいとも思ったが、石田の言葉を信じてパンツの代わりにパンストをはくことにした。
欠点はトイレで小をする時に脱がないといけないことだ。
だが前の部分にハサミで小さな穴を開けて、これも解決した。
これで私の冬装備は万全となった。

 
翌日、集合したみんなはいつもの様にカストロジャンバー姿だった。
レンタカー屋で借りた幌付き小型トラックの荷台に、荷物と一緒に私を含め5人ほどが乗り込んだ。
「パンスト、思ったほど暖かくないな」
暗い荷台の中で、私は素直な感想を言った。
『そうかな。パンストをはいた方が暖かいと思うけど』
「少しは暖かいけど、何かスースーしないか?」
『スースー?』
「何か、パンツに比べて頼りない様な」

『お前・・・、パンツはいてるよな・・・』
「いや、パンストにはき替えてきたけど?」

 
車内は爆笑に包まれ、石田は涙を流しながら笑っていた。

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(追記)

この書き込みは、第5夜「パンストのはき方」をリライトしたもので、ほぼ同じ内容です。

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嘉門達夫の名曲

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