ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

第33夜 天界と下界(見てはいけないもの)・・・仙人の退屈

いつも雲に乗って空を飛んでいた久米仙人はある日、川で洗濯をしている乙女の太腿に目を奪われた。一瞬芽生えた欲情のために彼の神通力は失われ、たちまちにして彼は空から墜落した。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「見つけたぞ!」 …

第32夜 理想の葬送(楽しい葬式の勧め)・・・心ゆくまで死を悼む

スーザン・バーレイ作の、絵本「わすれられないおくりもの」優しかったアナグマの死を悼む、森の動物たちの語りが涙を誘う。私はそれが理想の葬送に思えた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ もう何十年も前だが、職場の同僚が40歳で亡くなった…

第31夜 結婚(その 天国と地獄)・・・スピーチに込められた真理

スピーチは難しい。時々、自分の意図と違う受け止め方をされる事が有る。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 十年ほど前、息子が結婚した。息子から、式の最後で親族代表の挨拶をしてくれと頼まれた。私は1~2分の挨拶くら…

第30夜 死に至る点滴(触れてはいけないもの)

私は小さい頃から落ち着きがなく、「触ってはだめ!」と言われたものも、つい触ってしまう。 そして、人は幾つになっても変わらない。 ・・・・・・・・・・・・・ 初めて入院したとき、毎日何本も点滴をした。点滴が終わるとナースコールのボタンを押す。す…

第29夜 1985年式ヤマハTZR250(恐怖のオークション)・・・レストアの快感 

私はバイクも四輪も新車を買ったことがない。 中古のバイクには、人間と同じで様々なドラマが有る。 ---------------------- 「兄ちゃん、ガソリンが漏れとるで」信号待ちで並んだトラックの運転手から声をかけられた。一瞬何のことか…

第28夜 ADHDの私(豊かさとは何か)・・・ブッシュマンの憂鬱

1980年制作の映画「ブッシュマン」 一本の空きビンが巻き起こす珍騒動に笑った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アフリカの上空を飛ぶセスナ機から投げ捨てられた一本の空きビン。それを拾った原住民は、その素晴らしい使い方を発見す…

第27夜 知覧特攻平和会館②(2022年)・・・何を伝えるか

10年ぶりに知覧を訪れた。特攻平和会館の展示物は、戦争の悲惨さを語るのか、それとも悲劇の英雄たちを称賛するのか、それを確かめたかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「軍備増強を!」 「敵基地への先制攻撃を!」ウクライナ侵攻以降、…

第26夜 知覧特攻平和会館①(疑問)・・・称賛される英雄たち

小さい頃、戦闘機や軍艦に憧れた。軍艦を作りたくて、大学では船作りを学んだ。でも、戦争は嫌いだ。私の中に二人の自分がいる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あんまり緑が美しい。 今日これから死にいくことすら…

第25夜 指の切断より怖いもの(家庭に潜む 危険)

私の左手の人差し指には深い傷痕が二本ある。一本は記憶が無いほど幼いころのもの。そしてもう一本は・・・-------------------------- 4月、今年も生垣の剪定を電動の剪定機で始めた。家の周囲に植えた紅カナメは、毎年赤く美し…

第24夜 深夜のオルガン(心満たされる時)

バイトが終わるのはいつも夜の12時過ぎだった。ボーイ用の蝶ネクタイを外し、ワイシャツの上からジャンパーを着ると、そのまま店の外にあるバイクにまたがった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 深夜にもかかわらずネオン街は明るく、酔客の喧…

第23夜 ボーン神父(豊かな生き方を求めて)・・・ヘルマン・ヘッセの世界

死の床でゴルトムントはナルシスに言った。「愛のない人生を送って、君は幸せか?」・・・(50年以上も前に読んだ小説の最後は、確かこんなだったような気がする。) ・・・・・・・・・ 1978年1月、聖堂の中は寒かった。しかも、普段ですら多いとは…

第22夜 恋愛におけるABC・・・生まれ変われない自分

自分を変えたい、新しい自分に生まれ変わりたいと思う事がよくある。勇気を奮って一歩踏み出してはみるが、付け焼刃ではなかなかうまくいかない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大学1年の春、講義室で学科の友人達が「合ハイ」の話をし…

第21夜 1980年「糾弾会」・・・糾弾されるべきは誰か

教員三年目。半人前にも届かないのに、口だけは達者だった。ただ、「何が正しいのか、自分はどうあるべきか」苦悩する毎日だった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「何も答えられないんですか!」司会のKさんは私達に向けて語気を強めた…

第20夜 青雲寮②(アルバイト)・・・電話番の罠

「アルバイトの募集です。期日は明日の8時から、建設現場の作業、日給は5000円。」寮内放送が流れると、各階からいくつもの足音が事務室めがけて走り出す。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 学生時代の最初に住んだ青雲寮には、玄関先に…

第19夜 青雲寮1974年①(学生運動)・・・ストレートな生き方の時代

村上春樹の小説「ノルウェーの森」で、主人公は怪しげな学生寮に住んでいる。どこの学生寮も怪しい住人には事欠かない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「行くぞー!」 『おー!!』 学生寮に入って三日目だったか、今日は入学式という朝、寮の中…

第18夜 ノッポさんとの再会・・・昔できなかったことを今再び

ノッポさんとの久々の再会は、昔の自分との再会でもある。子育てに奮闘した若い頃、母や祖母に遊んでもらった幼い日。今では幸せな思い出となっている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 【ノッポさん 追悼番組】5月13日深夜(…

第17夜 「 先生 」(アルハンブラの思い出)・・・幸せな時間

ステレオにCDをセットし、ヘッドホーンをつけて椅子に座る。目当ての「アルハンブラ宮殿の思い出」を頭出しすると、心を落ち着けてボタンを押した。優しいトレモロの音が遠くから響いてくる。それは数十年前に店の片隅で、そして彼の自宅で聴いた音色そのまま…

第16夜 手袋 (数少ない、父との思い出)

父は数年前に亡くなった。最後に短期間介護をしていくらか関係が近づいたが、それまでは会話の少ない父子だった。今、とても父に会いたい。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「寒うなかか?」運転席の父が、バタバタと響く排気音に負け…

第15夜 追悼 ノッポさん・・・あなたの前では、誰もが子どもになれた

ノッポさんの作る工作はいつも夢一杯だった。子どもと一緒に作ったら、とても喜ぶだろうと思った。だが「いつか一緒に作ろう」と思いながらも、なかなかできないまま、子どもは大きくなってしまった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …

第14夜 神との取引(竜王山)・・・神を裏切った私

イザナミの眠る山、比婆山。その近くにある竜王山の登頂に失敗し、深刻な事態となった。私は神に祈る以外、どうすることもできなかった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「先生、Tの様子がおかしいです。」部長のMが最後列から叫んだ。雪…

第13夜 世界一短い病名・・・病気になって受けた差別(?)

何となく、他人に言い辛い病名が有る。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 憩室炎で入院した翌年の夏、私の身体はまたも重大な事態に見舞われた。便が出ない。元々便秘気味ではあ…

第12夜 被災地の記録② 2011年~2022年「TYO演奏会」・・・東日本大震災の11年と坂本龍一

坂本龍一は東北震災以降、被災地の若者たちによる「東北ユースオーケストラ(TYO)」を編成し、若者たちの支援を続けてきた。 -------------------------------------- (写真は2011年5月、大船渡の避難所近くの…

第11夜 被災地の記録① 2011年4月「 孤独 」・・・寄り添いを求めて

12年前の4~5月の連休、岩手県大船渡へ震災復興のボランティアに行った。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 仮設住宅への支援物資の配達を終え発車しようとしたら、一番若い20代のG君がいない。「そう言えば、…

第10夜 1962年式メグロS7・・・国産5メーカー混血車との旅

我が家には錆だらけのオートバイがある。最後にエンジンをかけて以来、数十年も軒下で寝ている。でも、捨てられない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ライトに照らし出され、海の中に鳥居が赤く浮かび上がっていた。ばあちゃんが修学…

第9夜 恐怖のケイチツ炎・・・不純な動機で入院した私

名前をつける際には慎重さが必要だ。病名も、ネット上のニックネームも。・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「大腸のケイチツ炎が疑われます。すぐに入院して下さい。」 『えー! 入院は困ります。通院でどうにかなりませんか?』 「このままでは危険です…

第8夜 永遠の少年「両さん」・・・ヒーローに憧れて

少年時代、マンガをよく読んだ。私の人生観は、マンガによって作られたのかも知れない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 鉄人28号、鉄腕アトム、エイトマン、ビッグX、スーパージェッター、宇宙少年ソラン、魔法使いサリー、秘密のアッコちゃん、・…

第7夜 教員「事始め」・・・教員に向いていない私

技術者を志して工学部に入学した。しかし、卒業時は深刻な造船不況。そして私は、たまたま教員免許を持っていた。幸運だったのか、不運だったのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 呼ばれて校長室に入ると、教頭が一人ソファ…

第6夜 ダニー・ボーイ(我が子を待ちわびて)・・・帰らざる日々

アイルランド民謡「ダニー・ボーイ」は、戦争に行ったまま帰ってこない息子を待つ、父親の気持ちを歌ったものだと聞く。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「女将さん、…