ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

第27夜 知覧特攻平和会館②(2022年)・・・何を伝えるか

10年ぶりに知覧を訪れた。
特攻平和会館の展示物は、戦争の悲惨さを語るのか、それとも悲劇の英雄たちを称賛するのか、それを確かめたかった。

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「軍備増強を!」 

「敵基地への先制攻撃を!」
ウクライナ侵攻以降、勇ましい声が飛び交う今の日本に危機を感じ、南九州市の平和スピーチコンテストに応募することにした。

その原稿の材料を集めるため、2022年の4月に南九州市知覧町の特攻平和会館を訪れた。


平和会館への訪問は27年間で4回目となる。
最初の訪問では、特攻兵や家族の思いに泣いた。
だが2回目、3回目の時は疑問を感じる展示が増えていることに気づいた。
展示の内容は本当に「偏向」しつつあるのだろうか。

 


今回の訪問では、図書コーナーにおかしな本は見当たらず少しほっとした。

だが、熊本から離陸した特殊工作部隊「義烈空挺隊」による沖縄米軍基地攻撃の絵はまだ展示してあった。

 

絵に描かれた日本兵達の姿は勇ましい。
勇敢にも敵基地に着陸し、機銃を放ち、拳銃や抜き身の日本刀を手にしている。
上空には日本の爆撃機が飛び交い、敵基地には炎が上がる。
それは兵士の武勇を称える絵で、決して鎮魂の絵ではない。
そしてこの絵だけで無く、この部屋の展示物は展示の意味に疑問を感じるものが、いくつもあるように思う。

 

戦闘機疾風は以前の訪問の時は模型だったが、実物に代わっていた。

その機体は1億円以上すると聞く。

疾風は詳しい性能を説明して部屋の中央に展示してあり、その姿は美しく力強い。
高性能な兵器の精悍さは、見る者の心に強さへの憧れを呼び覚ます。


他国の話だが、アメリカの国立航空宇宙博物館には、広島に原爆を投下した爆撃機エノラゲイ」が展示してある。
その展示の目的は被爆者への鎮魂ではない。
敵国日本を打ち負かした素晴らしい兵器として、誇らしげに展示してある。
そして、平和会館の戦闘機「疾風」や「隼」の実物も、それと同じメッセージを発しているように思う。


義烈空挺隊の絵について、気になったことがもう一つある。
絵にかかるタイトルには本来の名称である「義烈空挺隊」ではなく、「義烈特別攻撃隊」と書いてあった。
いわゆる「特攻隊」として紹介されている。
爆弾を抱いて敵艦に突入する特攻隊と違い、義烈空挺隊は現地で破壊工作を継続することを目的としている。
熊本の健軍基地から5月に出撃した際の作戦も、無謀な作戦ではあったが死ぬ事は命じられていない。
そういう意味では、「特攻隊」と名付けるのは少し違うような気がする。
この絵を展示した人が「特攻隊」の名をあえて冠したとすれば、「この隊だけ特攻隊扱いしないのは可哀想だ」という「配慮」が有るのかも知れない。
特攻という行為を神聖視する価値観を持っているのかも知れないと思った。


鹿児島県の曾於市に、「芙蓉部隊」の資料を収集している「芙蓉会」が有る。
芙蓉部隊とは、沖縄への特攻作戦が決まった作戦会議の席で特攻に反対した、美濃部少佐によって編成された攻撃部隊だ。
美濃部少佐は特攻作戦に異議を唱え、夜間攻撃による通常作戦を実施した。


「全飛行機特攻」の上層部方針に反対し、自分の主張を堂々と行った彼の生き方に感銘した人たちにより、戦後になって芙蓉会が作られた。

だが、会が部隊の資料を集めようとした時、部隊の生存者達から証言を集めるのに苦労したと聞く。
その原因の一つが「特攻をしなかった芙蓉部隊」に所属していたことを、元隊員達が「恥じた」ためだという。
私たちの意識の中に、特攻を美化する考えが溢れているのかも知れない。


そして、特攻平和会館の展示品の中にも、特攻を称えるものが幾つもあると感じる。

 


私が入館した時、修学旅行生らしい団体と一緒になった。
コロナが多少落ち着き、修学旅行も実施されるようになったようだ。
神妙な顔で遺書を読む生徒、屈託のない笑顔で友人たちと会話しながら歩く生徒、精悍な戦闘機に見入る生徒。
未来を作る彼らの眼に、先人達の生き様はどのように映ったのだろうか。
(2022年4月記)

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(追記・・・2022年6月
2022年5月、十数年ぶりに平和スピーチコンテストに応募しました。
以前、千通を超える応募のあった時代と違い、昨年は70通ほどの応募だったと聞き、「ひょっとしたら入選するかも」と、期待を込めての応募でした。
しかし、見事に一次審査で落選しました。
想像以上に手強いようです。

私が聴衆受けを狙って、昔のマンガ「零戦レッド」や「紫電改のタカ」をスピーチの冒頭に持ってきたのが良くなかったのかも知れません。

当初は、思う存分に会館の展示を批判しようと思って書き始めたのですが、全く面白くない原稿ができあがってしまいました。
聴衆が聞いて納得できる内容にしようと思って書き変えたのですが、審査委員の心は動かせなかったようです。

「平和をどう訴えるか」
私にとって、大きな課題です。

 

 

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