ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

第42夜 学校の怪談・・・深夜の残業

私は夜の学校が嫌いだ。
誰もいないはずなのに、誰かがいるような気がしてしようがない。
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これまで私が勤務してきた学校は、比較的郊外にあるものが多かった。

そしてそんな学校の中には、古い墓場や火葬場の跡地を整地して作ったというところも多い。

私が40代の頃に勤務した学校もその一つだった。


その頃私は特に仕事量が多く、いつも残業続きだった。
多くの人間が職員室に残って残業事務をしていたが、時間が経つにつれ一人二人と帰宅し、いつも私だけになることが多かった。
職員室で一人になると、節電のため天井の照明は消して、手元の電気スタンドの明かりだけで作業をした。
2階にある広い職員室は昼間はにぎやかだが、スタンドの照明だけになると私の机の周りだけが暗闇にボーっと浮き上がる。

 

トイレに行くときは、真っ暗で広い実習室脇の長い廊下を歩いていかなければならない。

小心者の私は出来るだけまわりを見ないように急いで歩いた。
用を済ますと小走りで職員室に帰り、ドアを閉めるとやっとほっとできた。
そして寂しさを紛らわすため、いつも音楽を聴きながら仕事をした。
私のお気に入りはクラシック音楽で、女声の歌曲などを聴くことが多かった。

 

赴任して一年目の初夏、その夜は特に遅くなり、夜の11時を過ぎても作業は終わらなかった。
いつもの様にパソコンを叩いていると、外にある非常階段を上がってくる足音が聞こえた様な気がした。
かなり前に最後の一人が帰宅しており、校内にはもう誰もいないはずだ。

一瞬気のせいかと思ったが、やがてスチールでできた重たいドアがきしみながら開く音がして、暗い廊下の端からコツン、コツンと足音が近づいてくる。
非常階段のドアは鍵がかかっているので開くはずは無い。
「何」がやってきたのか分からない私は、恐怖で声が出なかった。

足音は職員室のドアの前で止まった。
ドアがスーッと開くと、一人の男が立っていた。
 

「今晩は・・・」
二人同時に声が出た

「彼」は制服を着ている。
やってきたのは、警備会社の警備員だった。


聞けば、毎晩11時過ぎに校舎内を巡回しているらしい。
明かりが見えたので、マスターキーを使って確認に来たそうだ。
正体が分かってやっと安心したが、恐怖を感じたのは私だけではなかったようだ。

彼もドアを開けるまでは怖かったらしい。
彼にしてみれば、誰もいないはずの職員室の窓が一カ所だけボーっと光っており、高い声で歌う女の声が響いている。

私が警備員の立場でも、あまり近づきたくない状況だ。

 

その後も警備員と顔を会わせることが何回もあり、顔なじみになった。
彼のためにBGMに聴く曲は明るいものに代えた。
しかし、トイレの時だけはどうしても急ぎ足になってしまう。
夜の学校のトイレは怖い。

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(追記)
当時は長距離通勤で、職場の床に寝袋を広げて寝泊まりしながら、深夜・早朝に勤務することも良くあった。
毎月の残業は100時間前後だったろうか。
教員には残業手当は出ない。
一番怖いのはサービス残業かも知れない。

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大好きなキャサリン・バートル。

だけど、夜の学校では聴けない。