ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

第1夜 幻のブイヤベース(伝説のレシピはいかにして生まれたか)

学生時代、サークルの合宿で炊事当番をした。

その日、私たちが作った料理は「伝説」となった。 

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「草野さん、今晩のおかずは何にしますか?」
「うーん・・・」


お寺を借りてのグリークラブの合宿も今日で4日目。
調理当番の悩みは、メニューを決める事だ。
今日の当番である3年生の私と2年生のHとKは、買い出し先のスーパーで献立に迷った。
するとHが意外な提案をしてきた。
「ブイヤベースなんかどうです。」
「ブイヤベース?」
初めて聞く名前だった。
「ロシアかフランスの料理で、海の幸が入ったうまい料理らしいですよ。」
「うまい料理」の一言に惑わされ、すぐにメニューは決まった。
しかし鮮魚コーナーの食材はどれも高い。
仕方なく魚の代わりにメザシ、貝の代わりにえびせんを仕入れた。
あとの具材はジャガイモ、人参、大根でごまかし、特売のバナナとリンゴもデザート用に買って、3人は意気揚々と寺へ戻った。


料理を始めたが、魚(メザシ)を入れるタイミングが分からない。
「魚は煮崩れし易いんじゃないですか?」とKが言うので、野菜が煮えるのを待ってからメザシを入れてみた。
すると、入れた途端に何とも言えない異様な臭いがあたりに漂い始めた。
「大丈夫か?」
「シチューの素を入れたら消えますよ。」
うろたえる私に、Hは自信満々に答えた。
だがシチューの素を入れても、臭いは複雑になっただけで一向に収まらない。
三人共さすがに焦った。


「昨日残った、カレーのルーを入れてみましょう。」 
 入れたが効果がない。
「だめだ。ルーが少ないかな?」
「唐辛子なら有ります。入れましょう!」
さらに味噌や醤油も足してみたが、やはり効果は無い。


「リンゴには消臭効果が有ると聞いたことが有ります」とKが言う。
さすがにKは料理に詳しい。
デザートのリンゴは刻まれて鍋に入った。
「バナナの方がもっといい香りがしませんか?」
バナナも皮付きのまま輪切りにされて鍋に入り、デザートは消えてなくなった。


こうしてメニューは「闇鍋」へと変わっていき、マーガリンを入れ始めた頃はもう半分やけになっていた。

 
夕食時、おかずから立ち上る異臭に、部員のみんなが怪訝な顔をした。
「これ、食えるのか?」
「大丈夫、食べてみて。味は保証するから。」
しかし、「頂きます」の号令と共に箸を付けたみんなは、一斉に悲鳴を上げた。
ほとんどのおかずが突き返され、大半の部員は漬け物だけで夕食を済ませた。
私たち三人は責任を取らされて死ぬほど食べたが、それでも大量に余った「ブイヤベース」は墓地の脇へと埋められた。
そしてこの料理の味はその後何年もの間、部員達に語り継がれる事となった。


あれからもう数十年が経つ。
だが未だにブイヤベースを食べる機会は無い。
私にとってのブイヤベースは、あの時の味のままだ。
そして最近、「あの料理は、結構おいしかった。」と思うようになった。
私も歳をとったのだろうか。

 

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学生時代に一番歌った歌 「 Sing Along 」