ノスタルジー千夜一夜

失敗と後悔と懺悔の記録(草野徹平日記)

別冊④(山行編)パンスト初体験・・・未知との遭遇

異文化に接したとき、人は混乱する。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ パッケージから取り出すと、それは想像以上に薄かった。顔を近づけると向こうの景色が透けて見える。「こんなに薄くて、大丈夫かな?」初めて見るパンストを前に、私は考え込んでし…

別冊③(音楽編)虹の彼方に・・・旅立ったもの達へ

懐かしい曲を聴くと、懐かしい人を思い出す。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 新聞販売店近くの喫茶店で、私は就職して以来の出来事を話し続けた。二人の会話が途切れた時、店内に流れているメロディーがふと耳に入った。どこかで聴いた曲だ。いつど…

第40夜 「未来からの記憶」に導かれて(運命的な出会い)

アーサー・C・クラークのSF小説「地球幼年期の終わり」の中で、「未来からの記憶」という言葉が出てくる。私はこの言葉が好きだ。・・・・・・・・・・・・ 小説の中で、次のような内容が語られる。 ある日、宇宙人の乗った宇宙船が地球に着陸した。しかし、…

別冊②(恋愛編)ラブレター・・・借り物の自分を捨てる時

人生で一度だけ、ラブレターを書いた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「草野、この写真は使えない。」サークルの先輩が差し出した写真を見て、私は息が止まった。先日開かれた、各大学合唱団の合同クリスマス会での集合写真だ。整…

第39夜 シェヘラザードの悩み(エッセイを書く苦しみと楽しみ)・・・読んでもらえる文章を書く

シェヘラザードは王様に殺されないために、面白い話を千一夜話し聞かせて命が助かった。彼女が助かったのは、シンドバッドの冒険などの面白い話を沢山知っていたからだ。もし私のエッセイを聞かせていたら、話の途中で即座に王様に殺されていただろう。・・…

別冊①(料理編) 幻のブイヤベース(伝説のレシピはいかにして生まれたか)

その日、私たちが作った料理は「伝説」となった。

第38夜 マタイとヨハネと改名騒動(役所に見る国際化と鎖国)

日本の行政は非常に厳格だ。一方、最近のマイナンバーカードの登録に象徴されるように、怪しげな運用も多い。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「その名前はダメです。受け付けられません」窓口の担当者は冷たく言い放った…

第37夜 ジョーの思い出(大陸横断鉄道を作った曽祖父)・・・トロンコとジャケツの謎

昔から、我が家だけでしか通じない言葉がある。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 我が家の言葉は、他の家と少し違う。いろんな国の言葉が混じっている。私の肥後弁、妻の備後弁、息子の嫁は肥前の言葉だ。そして私が小さい頃からよく聞い…

第36夜 石鎚山(汚水で作るおいしいコーヒー)・・・古いガイドマップに騙されて

「空腹は、最高の調味料だ」と、誰かが言った。私が最高にうまいコーヒーを飲んだのは、石鎚山の岩場でだった。 ---------------------- 1985年の夏休み、私が勤務する高校の探検部は、四国の石鎚登山を計画した。私を含めた4名は誰…

第35夜 飛行機雲の向こう(叶わぬ夢)・・・父と見送った飛行機

飛行機は金属的なジェット音と共に加速し、目の前で離陸していく。そして腹に響く低い轟音を残して、遠くへと消えていった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 高3の夏、私は航空大学校を受験するため宮崎に向かった。まだ受験する大学を最終決定…

第34夜 愛するものへ・・・ばあちゃん、僕、そして孫

消毒液の匂いの漂う病室で数十年ぶりに握ったばあちゃんの手は、野良仕事で鍛えた大きくしっかりとした手だった。この手で僕は育ててもらった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小さい頃、僕はいつもばあちゃんと一緒だった。忙しい両…

第33夜 天界と下界(見てはいけないもの)・・・仙人の退屈

いつも雲に乗って空を飛んでいた久米仙人はある日、川で洗濯をしている乙女の太腿に目を奪われた。一瞬芽生えた欲情のために彼の神通力は失われ、たちまちにして彼は空から墜落した。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「見つけたぞ!」 …

第32夜 理想の葬送(楽しい葬式の勧め)・・・心ゆくまで死を悼む

スーザン・バーレイ作の、絵本「わすれられないおくりもの」優しかったアナグマの死を悼む、森の動物たちの語りが涙を誘う。私はそれが理想の葬送に思えた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ もう何十年も前だが、職場の同僚が40歳で亡くなった…

第31夜 結婚(その 天国と地獄)・・・スピーチに込められた真理

スピーチは難しい。時々、自分の意図と違う受け止め方をされる事が有る。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 十年ほど前、息子が結婚した。息子から、式の最後で親族代表の挨拶をしてくれと頼まれた。私は1~2分の挨拶くら…

第30夜 死に至る点滴(触れてはいけないもの)

私は小さい頃から落ち着きがなく、「触ってはだめ!」と言われたものも、つい触ってしまう。 そして、人は幾つになっても変わらない。 ・・・・・・・・・・・・・ 初めて入院したとき、毎日何本も点滴をした。点滴が終わるとナースコールのボタンを押す。す…

第29夜 1985年式ヤマハTZR250(恐怖のオークション)・・・レストアの快感 

私はバイクも四輪も新車を買ったことがない。 中古のバイクには、人間と同じで様々なドラマが有る。 ---------------------- 「兄ちゃん、ガソリンが漏れとるで」信号待ちで並んだトラックの運転手から声をかけられた。一瞬何のことか…

第28夜 ADHDの私(豊かさとは何か)・・・ブッシュマンの憂鬱

1980年制作の映画「ブッシュマン」 一本の空きビンが巻き起こす珍騒動に笑った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アフリカの上空を飛ぶセスナ機から投げ捨てられた一本の空きビン。それを拾った原住民は、その素晴らしい使い方を発見す…

第27夜 知覧特攻平和会館②(2022年)・・・何を伝えるか

10年ぶりに知覧を訪れた。特攻平和会館の展示物は、戦争の悲惨さを語るのか、それとも悲劇の英雄たちを称賛するのか、それを確かめたかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「軍備増強を!」 「敵基地への先制攻撃を!」ウクライナ侵攻以降、…

第26夜 知覧特攻平和会館①(疑問)・・・称賛される英雄たち

小さい頃、戦闘機や軍艦に憧れた。軍艦を作りたくて、大学では船作りを学んだ。でも、戦争は嫌いだ。私の中に二人の自分がいる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あんまり緑が美しい。 今日これから死にいくことすら…

第25夜 指の切断より怖いもの(家庭に潜む 危険)

私の左手の人差し指には深い傷痕が二本ある。一本は記憶が無いほど幼いころのもの。そしてもう一本は・・・-------------------------- 4月、今年も生垣の剪定を電動の剪定機で始めた。家の周囲に植えた紅カナメは、毎年赤く美し…

第24夜 深夜のオルガン(心満たされる時)

バイトが終わるのはいつも夜の12時過ぎだった。ボーイ用の蝶ネクタイを外し、ワイシャツの上からジャンパーを着ると、そのまま店の外にあるバイクにまたがった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 深夜にもかかわらずネオン街は明るく、酔客の喧…

第23夜 ボーン神父(豊かな生き方を求めて)・・・ヘルマン・ヘッセの世界

死の床でゴルトムントはナルシスに言った。「愛のない人生を送って、君は幸せか?」・・・(50年以上も前に読んだ小説の最後は、確かこんなだったような気がする。) ・・・・・・・・・ 1978年1月、聖堂の中は寒かった。しかも、普段ですら多いとは…

第22夜 恋愛におけるABC・・・生まれ変われない自分

自分を変えたい、新しい自分に生まれ変わりたいと思う事がよくある。勇気を奮って一歩踏み出してはみるが、付け焼刃ではなかなかうまくいかない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大学1年の春、講義室で学科の友人達が「合ハイ」の話をし…

第21夜 1980年「糾弾会」・・・糾弾されるべきは誰か

教員三年目。半人前にも届かないのに、口だけは達者だった。ただ、「何が正しいのか、自分はどうあるべきか」苦悩する毎日だった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「何も答えられないんですか!」司会のKさんは私達に向けて語気を強めた…

第20夜 青雲寮②(アルバイト)・・・電話番の罠

「アルバイトの募集です。期日は明日の8時から、建設現場の作業、日給は5000円。」寮内放送が流れると、各階からいくつもの足音が事務室めがけて走り出す。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 学生時代の最初に住んだ青雲寮には、玄関先に…

第19夜 青雲寮1974年①(学生運動)・・・ストレートな生き方の時代

村上春樹の小説「ノルウェーの森」で、主人公は怪しげな学生寮に住んでいる。どこの学生寮も怪しい住人には事欠かない。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「行くぞー!」 『おー!!』 学生寮に入って三日目だったか、今日は入学式という朝、寮の中…

第18夜 ノッポさんとの再会・・・昔できなかったことを今再び

ノッポさんとの久々の再会は、昔の自分との再会でもある。子育てに奮闘した若い頃、母や祖母に遊んでもらった幼い日。今では幸せな思い出となっている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 【ノッポさん 追悼番組】5月13日深夜(…

第17夜 「 先生 」(アルハンブラの思い出)・・・幸せな時間

ステレオにCDをセットし、ヘッドホーンをつけて椅子に座る。目当ての「アルハンブラ宮殿の思い出」を頭出しすると、心を落ち着けてボタンを押した。優しいトレモロの音が遠くから響いてくる。それは数十年前に店の片隅で、そして彼の自宅で聴いた音色そのまま…

第16夜 手袋 (数少ない、父との思い出)

父は数年前に亡くなった。最後に短期間介護をしていくらか関係が近づいたが、それまでは会話の少ない父子だった。今、とても父に会いたい。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「寒うなかか?」運転席の父が、バタバタと響く排気音に負け…

第15夜 追悼 ノッポさん・・・あなたの前では、誰もが子どもになれた

ノッポさんの作る工作はいつも夢一杯だった。子どもと一緒に作ったら、とても喜ぶだろうと思った。だが「いつか一緒に作ろう」と思いながらも、なかなかできないまま、子どもは大きくなってしまった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …